十代の頃から環境問題に高い関心を持っていたお二人。イギリスと日本を拠点に独自の感性をいかして活躍する青木陽子さんとの対談です。

「ビューティフルアイランズ」をご覧頂いて、どう感じられましたか?
何が起こっているかは大体知っていたので、個人的にはそれ自体がショックということはなくて、むしろ印象に残ったのはツバルの音楽とか踊りのシーンです。あのハーモニー、お年寄りから子どもまでああやって歌って一つになれるっていいなと。あれは本当によかったです。
ツバルでは、子どもの頃からずっと歌っているので、曲が始まったら各自でいろんなパートを勝手に決めてハーモニーになるんです。晩ご飯の前にも必ず家族全員で歌を歌うんです。
あと、軍艦マーチのおじちゃん(笑)。
あの辺りは昔、戦争で日本軍が行っていた地域なんです。あれは実は深い1カットです(笑)。ベネチアはどうでしたか?
私、あのアクア・アルタ(=高潮)に遭ったことがあるんです。もう二十数年前だけど、冬に観光で行ったら、「わあ、水浸し!」って。あの仮設の台の上を歩いて回った。そうとは知らずに行ったんですが。
それはけっこうすごいことですね。頻繁に起きる年は年に80回くらいになるんですけど、日本の台風みたいな感じでアクア・アルタもすごい年とそうじゃない年があるんです。私は撮りたかったんだけどヨーロッパにでも住んでいない限り絶対撮れないって言われていて。でも偶然に日本でアクア・アルタの被害のニュースを見て、その日のうちにチケットを取ってベネチアまでロケに行きました。それでも2週間ぐらいかかってやっと撮れたんです。
私の時はサンマルコの辺りだけだったのかもしれない。
あの渡り台も、市内のごみ収集の仕事をしている方々が総掛かりで、何十キロもの台を沢山出すんですよ。ものすごく大変な労力で、それも1時間ぐらいで作業をしないとあっと言う間に潮が上がってきちゃうので、あれは本当に大変です。もちろん潮が引いたらまた台を片付ける。ブランドショップにずらっと並んでいる通路の真横にも、よく見るとああいう台が組み合わさって積んである。
その間お店も営業できないでしょうし、かなりの打撃でしょうね。
ブランドショップも目の前に鉄の板みたいなのを打ち付けて水が入らないようにしているんだけど、お店のある場所によってはお店の中の地面から水が出てきちゃうから、外をいくら堰止めても全然ダメ。
ツバル状態ですね。
そうなんです、ツバルとベネチアは全く違う所なのに、水の噴き出し方とかもそっくりで、地中から海水がバーッと上がってくる感じは本当に似ていました。自分が企画して撮りに行っているのに、「あ、本当に世界中で同じことが起きているんだ」と思いました。
言ってみれば東京だってロンドンだってニューヨークだって水際なわけですからね。
アラスカのシーンで何か印象に残っていることはありますか?
私は、まずは白人が少ないなと。
教会の司祭と学校の先生が白人で、あとは皆さん先住民の方です。あそこに行ってちょっとつらかったのは、地元の言葉で「ありがとう」って何て言うのか聞いてみたら、もうだれも分からないんですよ。アメリカになる過程で言葉が全部奪われて「ありがとう」という言葉さえもうみんな言えないんだと。数字も「1、4、8」みたいになっちゃって、数えられない。だから彼らはまず言葉みたいな文化をもぎり取られて、今度は住む場所もなくすのだろうと思いました。
何て言ったらいいんでしょう、温暖化の被害を、私はむしろあまりにも長く追い過ぎているから。ようやくこういった作品が一般に広まる時代が来たんだなと、嬉しくもあり、でもどこかでちょっと遅いかもっていう焦りや悲しみもすごくあるんです。
逆に言うと、例えば自分の住んでいる町にああいうことがどういうふうに起きてくる可能性があるか、ということに思いをつなげてもらって、次のあの島を作らない、ああいう町にならないというか、そういうふうにベクトルが行ってくれたらいいと思うんです。

青木さんは、環境問題とか気候変動にどういう入り口から入っているんですか?
私が中学校の時に「異常気象」とすごく言われたんです。私は小さいころから理科が大好きで図鑑なんかも一生懸命見る子で、その延長でたまたま親が買ってきた「ニュートン」か何かを見ていたら科学者たちの間で「温暖化」というのが言われているというのを知って、「あ、これだな」と。まだ諸説紛々ということはもちろん書いてあったけれど、そのあとしばらく子どもなりに追い掛けていって知るほどに「ああ、これは絶対本当だ。人類の危機なのに、何でテレビや新聞で言わないんだろう?」と考え始めたのがきっかけです。印象に残っているのは、高校の終わりぐらいに二酸化炭素濃度とこれまでの気温の上がり方、その悲観モデルと楽観モデルと両方あって、二十数年経ってみて今、全部悪いほうでトレースしてきているのに、常にマスコミとか経済人とか政治家は楽観のほうを見ようとしている。
本当に自分の足元に水が来るまで分からないんだと思うんですよね。今回の作品も見る人の想像力というかインテリジェンス、もしくは未来を読み解く心とか、そういうものを試す作品になっていて、多分あまり考えないで見ているときれいな景色がつながっている、だけにしか思えないで終わっちゃう人も多分いると思うんです。
最初の沈んでいるパームツリーを見た時は「来たー」っていう感じでした。
青木さんはすぐ分かりました?それは珍しいです。ほとんどの人は分からなくて、何でこの映画、ずっと音がないんだろうって。
最初はそうですね、分からなかったです。2回目に「ああ」と。
最初は分からないものがあとで分かることが大事だと思って、わざと同じカットを2回使っているんですけど、最初のカットで分かったんですね。
最初の2秒ぐらいで分かりました。
それはすごい(笑)。
海南さんは、なぜ温暖化に?
私は高校生ぐらいの時に世界中の木材や紙の消費量のデータを見て、日本人と同じ分量だけ世界中の人が紙を使い出すと1週間か10日で全部木がなくなっちゃう、と。それでびっくりして、いつも「現地に行きたい派」なので、大学生の時にバイトしてお金を貯めてそういう現場に出掛けるようになって。インドネシアでは植林の活動に参加したんですが1年目に植えた木が翌年に全部枯れていて。1本の木が育つまでこんなに大変なのに私たちはものすごく大量の紙を使っている。そういう生き方に疑問を持っていたころに92年の地球サミットがあったんです。その時、大学を1年間ほぼ行かないでNGOでバイトしたりボランティアしたりしました。卒業してNHKで働いていたときも環境破壊の現場に取材に行ったりしていて、9.11前後はしばらく戦争関係のことをやっていたんですけど、環境のことをやりたいという気持ちがずっと強かったので、やっと自分のフィールドに戻れたという思いです。
「同志」っていう感じ。
ホントにそうですね。やっぱり十代の時に小さな疑問のかけらがあって、それがずっと続いて今がある、と。

Cafeglobeはどういうきっかけで始められたんですか?
Cafeglobeを始める直前に、あるファッション誌の編集をやっていて、日本に住んでいる外国人女性たちにインタビューで日本人女性のビューティ意識や傾向をどう思うか、という企画をやったことがあるんです。基本的には日本に住んでいる人たちだからみんな好意的な意見が多かったんですけどそんな中で「もうちょっとリラックスしてもいいんじゃない?」いうのが出てきて、「パーティの時はここぞとばかり超ゴージャスな自分を作るし、お休みの日にはノーメークでコインランドリーに自転車で乗っていく。どっちの自分もステキで、その幅を楽しむのがいいわよね」というコメントがあって、すごくいいなと思って載せたんです。そしたら編集長から「メークしない自分も魅力的というのは削って」と。「でもメークする女はバカだとか言っているわけじゃないし、その幅を楽しむって言っているじゃないですか」って頑張ったんだけれど、「うちのクライアントは上から3つ化粧品会社だし、これを化粧品会社が読んだらどう思う?」って言われて、「どうも思わないんじゃないですか?」って思ったけれど(笑)。それでもう辞めようと思って、大げさに言うと怒りを晴らすためにCafeglobeを作ったんです。だけど、Cafeglobeも広告を取らないとやっていけないので、徐々に似たようなジレンマに苛まれる面は出てきました。広告メディアの限界なのかな・・・。
でもそれだけ大きくなったってことですよね。
媒体論を語っても仕方がないんだけれど、やっぱり新聞にせよテレビにせよ、広告収入で発信するメディアというのは難しい。購読料でやる媒体もあるけれど、状況は厳しい。そこはもう一度考え直さないと危ないなと、足元で思うところです。

自転車にも昔から乗っていらっしゃいますよね。
もう10年ですね。自転車をはじめたのも、温暖化がモチベーションの第1で、「やせるかな?」が第2で。
それはステキなこと(笑)。自転車で走る魅力って何ですか?
私はもともと乗り物が好きなんです。疾走感と運転する喜び。例えば今日だったら桜をいっぱい見てきました。地下鉄じゃ見られないでしょう?空気の中に紛れ込む新しい季節のにおいがものすごくビビッドに感じられる。半蔵門や青山にいた時に、仕事で目が四角くなるぐらいまで、パソコンをやって「もう疲れた。帰ろう。こんなに働いて、何やっているんだろう、私。」って重い気持ちで自転車にまたがるんです。乗る前は「めんどうくさいな」と思うんだけれど、一こぎし始めると「自転車で良かったー!」と思うぐらい癒される。夜の空気のにおいがワーッと入ってくる。もうそれだけで充血していた脳みそがスーッとなっていくような感じで。
本当にすごくいい気分転換になるし、実際に体を動かすから血の巡りも良くなりますしね。
冷え症なんてないし、筋肉質だからそんなに体脂肪も増えないし、いいことだらけです。港区の辺りを走っていると「ここは谷筋で、ここが尾根筋で、ここにはきっと川が流れていたんだな」とか、人間がいっぱいになる前の東京の緑の山の姿が想像できるようになるし、こうやって四つんばいで走り回るのでワイルドな気分に。動物力が上がる、とたまに言うんですけど(笑)。
今、ちょっと雌ヒョウっぽかった(笑)。
「あ、いい男!ついていこうからしら?」って(笑)。 この映画、Cafeglobeで持っているコラムでもご紹介しようと思っているんですが、ユーザーのみなさんに伝えたいことはありますか?
気候変動とか温暖化って思い込んで来ていただくと多分ちょっと苦しいかもしれないから、音楽とか風景だけを楽しむためだけでもとても気持ちがいい作品だと思う。詩のようなドキュメンタリーというか、そういうつもりで2時間の世界旅行に一緒に出ませんかと。ただし、ここに映っている全てのものは近い将来消える可能性がある。問題があまりにも大きいので自分に何ができるかと考えたらすごく苦しくなっちゃうんだけど、映画を見ることで木が植わったり、そこで体験したことを誰かとシェアしたりして頂くところから一緒にはじめたいですね。可愛い子どもたちがいっぱい出てくるので、お子さんのいる人にも楽しんでもらえると思います。